発表要旨

10:00-10:30 口頭発表1

関連性理論における日中公共広告表現の分析 

-メタファーによる広告の説得力- 

黄琬詒(同志社大学[院])

【要旨】 

語用論における関連性とは、新井(2006)によると、認知の経済性を表す概念で、認知効果を分子に、解釈労力を分母として表わすことができるとされている。また、新井(2007)は、説得力を測る尺度の一つとして、関連性の高さを提案し、受信者にとって、受信する情報の関連性が高ければ高いほど、その情報は受信者にとって説得力が増すと主張した。さらに、関連性理論における表意については、Carston(2000)が、一義化、飽和、自由拡充、アドホック概念形成の4つの語用論的プロセスが存在すると指摘した。

内田(2008)によると、関連性理論におけるメタファーは、コード化された概念からアドホック概念を構築することにかかわるとするとされている。そして、内田(2017)は、関連性理論におけるメタファーが、修辞表現以外の発話にも援用できるアドホック概念による説明によって、表意のレベルで扱うことができるようになるという一般化が可能であると指摘した。 

これらの先行研究を踏まえ、本発表では、「関連性」で説得力を解釈するという観点から、関連性理論における表意の中のアドホック概念形成(隠喩・メタファーあり)と一義化(メタファーなし)という表現形式を含む日中公共広告表現を研究対象として、メタファーを含むキャッチコピーは、含まないものより、説得力があるのかを考察することを目的とする。具体的には、説得力を測る1つの尺度として、新井(2006)の提案した関連性についての関係式の数値化を試みる。

本発表では、メタファーが表意を得る過程の中で、単語本来の意味は、縮小ないし拡充して新たにできた意味をもつことになり、一義化が発話の関連性を達成するためには、辞書では複数の語義をもっているなかで、語用論的にその語義が1つ選択されて、決定されるという立場をとることとする。

本発表では、(1)日本語母語話者が日本語のキャッチコピーを判断する場合、(2)日本語母語話者が中国語のキャッチコピーを判断する場合、(3)中国語母語話者が中国語のキャッチコピーを判断する場合、(4)中国語母語話者が日本語のキャッチコピーを判断する場合の4つのタイプに分けて、メタファーの有無という観点から比較・検討する。

その結果、(1)と(3)のように、同一文化のコンテクストの場合、メタファーを含むキャッチコピーは、含まないものより、十分で説得力がある一方、(2)と(4)のように、同一文化のコンテクストではない場合、メタファーを含むキャッチコピーは、含まないものより、説得する傾向が高いと指摘する。

主要参考文献

【発表者プロフィール】

10:35-11:05 口頭発表2

音象徴を利用したオノマトペの指導法 ―感情を表すオノマトペを中心に― 

飯泉李子(横浜国立大学[院]) 

【要旨】

  一般的に日本語学習者にとって日本語のオノマトペの習得は難しいと言われている。その理由は日本語には他の言語に比べて多くのオノマトペが存在することや、その意味が感覚的な為であると考えられる(村上 1980)。オノマトペの意味が感覚的である要因はその音象徴性にあると考えられる。音象徴性とは、音のイメー ジがその言葉の意味に繋がる性質である(田守・スコウラップ 1999)。音象徴の一部は多言語間で普遍的である ことが分かっている。例えば唇音は「肥満」を表すことや、/a/は大きいイメージ、/i/小さいイメージを持つなど はいくつかの言語で共通している(Ohala1997, Hamano1986)。しかし日本語の音に焦点を当てた研究は少なく、 日本語のオノマトペから学習者がどんな意味をイメージしているのか明らかになっていない点が多くある。また 学習者にとって難しいオノマトペは感情を表す表現、擬情語であることが分かっている(本多 2013)。その為、 指導の際は感情を表すオノマトペに注目する必要があると考える。 

本研究は日本語オノマトペの中で多く出現する音、/r/ラ行、/h/ハ行、/p/(/b/)パ行(バ行)の音を研究対象とし、日本語オノマトペに対して日本語非母語話者が持つイメージと日本語母語話者が持つイメージを比較検討したものである。分析対象とした音に対して、感情を表す表現で印象を評価するテストを行った。最後に、オノマトペの特徴である音象徴性をオノマトペの指導や学習への利用を提案したい。

参考文献: 

【発表者プロフィール】 名前:飯泉 李子 所属:横浜国立大学大学院教育学研究科教育実践コース 修士課程 専攻:日本語教育

11:10-11:40 口頭発表3

中国語を母語とする日本語学習者のオノマトペの習得状況 

―中国の大学における高学年学習者を対象に― 

金 香花(東京外国語大学[院])

【要旨】

日本語のオノマトペは日本語学、日本語教育学、認知言語学など様々な分野で研究されているが、日本語教育学においては、オノマトペは学習者にとって難しく、その習得も困難であるとの指摘が多くなされている(玉村1989、彭2007、中石2011)。特に玉村(1989)は、音象徴語は数が多く、辞書に掲載されておらず、音声による描写の間接性があるため、日本語学習者にとって難点の一つであると指摘している。また、彭飛(2007)は、オノマトペは感性的な表現であるため、視覚的に訴える漢字圏の外国人にとって難しいと述べている。

このように、オノマトペの難しさは1980年代から指摘され現在に至っている。しかし、中石他(2014)に指摘されているように、オノマトペの習得を困難にする要因の分析や学習者の習得状況を検証する研究は少なく、特に海外の日本語学習者を対象とした実証的な研究はあまり行われていない。また、実際の教授法に生かせるように、中国語を母語とする学習者を対象にオノマトペの誤用研究も行われてはいるが、その誤用傾向は体系的にはまとめられていない。

そこで本研究では、中国の大学における中国語を母語とする高学年日本語学習者を対象に、アンケート調査に基づきオノマトペの習得状況を探った。また、フォローアップインタビューを通じてオノマトペを理解する際の具体的なプロセスや学習者の誤用からみられる共感覚について調べてみた。具体的に、中国上海外国語大学と中国延辺大学の4年生各9名、計18名に与えられた擬音語と擬態語を用いて短文を書く記述式アンケートに回答してもらい、その後フォローアップインタビューを行った。

その結果、中国語を母語とする日本語学習者は見聞きしたことのあるオノマトペであっても間違いやすく、似たようなオノマトペと混同しやすいということが分かった。また、知らないオノマトペの意味を推測するとき、母語である中国語と似ている音から推測するものもあったが、文字で表記されたオノマトペに含まれている1つあるいは複数の仮名から既知の日本語の単語を連想して意味を推測したものも多かった。それは、高学年日本語学習者が既に何年間か日本語を勉強しており、日本語の知識がある程度蓄積され、駆使しようとしたものではないかと思われる。文字だけでなく、提示されたオノマトペを音読した際の口の形や、濁音や促音などの音節から抱くイメージや、そのほか音のイメージから推測したものもあった。

このように、中国語を母語する学習者が日本語のオノマトペの意味を理解するプロセスには複数の道筋があり、意味を推測する際に何を手がかりとするかについて違いがあることがわかった。

【参考文献】

13:00-14:30 報告

科学研究費研究課題 成果報告会

「会話におけるメタファー使用の動的・協働構築的プロセスに関する研究」

報告1

語りの受け手の理解を示すメタファー

-会話分析によるメタファー研究の一事例-

杉本 巧(広島国際大学)

本発表では、まず科学研究費による研究課題のこれまでの取り組みについて簡単に報告する。次に、会話データを用いたメタファー研究の事例について報告する。

会話をデータとする利点のひとつは、言語使用者が具体的な文脈の中でメタファーを使用する様が観察可能なことである。発表者が収集した会話データのなかで、算数の計算練習の必要性についての語りを聞いた参与者が、「(計算は)運動だもんね」と発話する場面が見られた。つまり、情報提供を受けた側が、メタファーを用いているのである。本発表では、そのようなメタファーを含む発話について、会話分析の立場から、その言語的特徴と付随する非言語的特徴、発話連鎖上の配置、発話を受けた参与者の反応を分析する。そして、上述のような場面では、メタファーが語りの受け手の理解を証拠立てるための資源として利用されていることを示す。

【プロフィール】

杉本 巧(すぎもと たくみ)・広島国際大学看護学部准教授

報告2

みんなのメタファー分析

―創造的メタファーを既知の概念メタファーへ関連づける方法に関する試論―

鍋島 弘治朗(関西大学)

以下をご覧いただきたい。

2014年3月1日放送 N:野村萬斎とI:市川猿之助の対談から

1     N:  .hその:(.)せんぱいからいろいろ習う(.)とがあるっていったときにね?

2         (0.9)型というものを(0.4)>こう<ふんどしにそれこそたとえると:,

3     I:  ((笑いながらうなずき))

4     N:  ふんどしをず::っといろんな人がはいてきた.(すると)<いろんな体型の人がいただろうと.

5     I:  は:.はい.

6     N:  >そうすると<かなりでかいわけですよ.

7     I:  hhhh

8     N:  ぼくらの感覚で言うと:,(0.6)とにかくそれに(0.4)そっちにあわせて太らなきゃいけない?

9     I:  ん::.

10    N:  先輩から譲り受けたふんどしに自分のからだのほうを[あわせていく.

11    I:  ん:.

12    N:  つまり自分の可能性とゆうか自分の,まもっているものだけではなくて:,先人達が築いてきたやっぱり

13    その650年とか400年とかの英知に自分のほうを(.)合わせてくっていうことで,何か,自分の可能性って

14    ゆうものをきくする.

ここでNは、先輩から習う<型>をふんどしに喩え、伝統と個人の問題を面白可笑しく語っている。会話の中ではこのように創造的なメタファーが頻出するので、会話の中で発生するワンショットで創造的に思えるメタファーを、認知メタファー理論で知られた既存のメタファーとどのように関連付けるかは重要な課題である。

このメタファーは一見、<型はふんどし>というメタファーに定式化できるように思われるが、考えれば、<型>自体がメタファーである。本発表では、<類似は近接>メタファーを利用して、<型>の本質を解き明かし、創造的と思われるメタファーを既知のメタファーに関連付ける方法を提唱する。

報告3

「こう」と共起する表現について:イディオム的・借り物的表現を中心に

串田秀也(大阪教育大学)・林 誠 (名古屋大学) 

会話ではしばしば、他の言語成分と統語的につながらないフィラー的な「こう」の使用が見られる。この「こう」はしばしば身ぶりを伴ったり、言葉探しを伴ったりするとともに、共起する言語表現にも一定の傾向がある。代表的なものとして、(a) メタファー、(b) アナロジー、(c) オノマトペ、(d) 例示、(e) 引用、(f) イディオム的表現、(g) 借り物的表現などが見られる。「こう」の基本的な用法が身ぶりを伴った現場指示的な用法だと考えられること、および、「こう」と共起する言語表現にこのような偏りがあることを考え合わせると、次のような作業仮説を導くことができる。話し手がある事態を言葉で過不足なく表現することに何らかの困難を見出しているとき、その事実に対して聞き手の注意を喚起するために「こう」を用いることができる。それによって、「こう」と共起する言語表現を通常とは異なる仕方で理解するように方向づけることができる。本発表では、このような作業仮説に沿って、とくにわれわれが仮に「イディオム的表現」「借り物的表現」などと呼んでいる事例に焦点を当て、メタファー、イディオム、字義通りの表現などの関係について議論したいと思う。

14:35-15:05 招待発表

認知文法とメタファー 

町田 章(広島大学)

【要旨】

認知文法の構想をスタートした当初より,メタファーを含むfigurative languageの重要性に関して,Langackerは様々な機会にコメントを出している。実際,認知文法の研究指針を示したFoundations of Cognitive Grammar, vol. 1の冒頭の1ページ目において,Langackerは,真っ先にfigurative languageの重要性について明確に述べているのである。ところが,その一方で,認知文法ではメタファーを扱わない,Langackerはメタファーに関心がないという批判が絶えないのも事実である。たしかに,Langacker自身のこれまでの研究を見ると,メトニミーを文法分析に積極的に取り入れているのに比べるとメタファーの扱いはかなり物足りない感じがする。特に,be going toやgo sourなどの抽象的移動の分析に関する一連のLangackerの分析は,メンタル・スキャニングと呼ばれる認知操作や主体化と呼ばれる意味拡張現象に傾倒しており,メタファー軽視と捉えられても仕方がないようにも思われる。このような現状を踏まえ,本研究では,認知文法とメタファーとの関係についての誤解を解くとともに,メタファー研究と認知文法の今後の望ましい関係性について議論したい。

【プロフィール】

町田 章(まちだ あきら)広島大学総合科学研究科 准教授

15:15-17:35 シンポジウム

「オノマトペ、共感覚とメタファー: 3つの認知的現象をめぐって」

「味覚の共感覚表現」の動機づけに関する一考察

武藤 彩加(広島市立大学)

オノマトペの共感覚性と多感覚性 

秋田 喜美(名古屋大学) 

「共感覚」は、オノマトペが見せる二つの現象についてしばしばキーワードとなる。一つは、「カチカチ」の/k/が固さと結びつくというような音象徴について、もう一つは、「カチカチ」が接触音(例:カチカチとダブルクリックする)から材質(例:カチカチの餅)へと意味を移す意味拡張についてである。本発表では、とりわけ日本語のオノマトペの認知意味論的分析で話題となる後者の「共感覚」について、批判的に考察する。具体的には、「オノマトペの意味はそもそも多感覚的(multimodal)である」という知見を出発点とすることで、「共感覚的比喩」と分析されてきた意味拡張の多くは、多感覚的映像内の焦点転移、すなわちメトニミー拡張を中心に捉え直されるべきことを提案する。

共感覚メタファーとオノマトペの理解を支える情緒・感覚的意味 

楠見 孝(京都大学)

【要旨】 

メタファー理解は情緒・感覚的意味によって支えられており,それは五感に共通する通様相的な性質をもっている。本発表では,メタファー(例:記憶は沼だ),共感覚形容詞メタファー(例:甘い音),共感覚動詞メタファー(例:音楽を味わう),共感覚オノマトペ(例:きらきらした音)を例に取り上げる。そして,(a)皮膚感覚や味覚の形容語で聴覚や視覚,さらには心的名詞(気分や思考,記憶,性格)を表現するという一方向性と,(b)それを支える情緒・感覚的意味空間が五感に共通する同型性をもつことについて,評定データに基づく多変量解析によって検討する。 

【主要文献】

【発表者プロフィール】