規範倫理学入門
規範倫理学(normative ethics)の代表的な考え方として、功利主義、カント主義/義務論、徳倫理学の三つが挙げられます1。それぞれの考え方を、1.導入、2.キーワード、3.理論、4.実践という観点からまとめてみました。それぞれ独立して読むことができます。内容は初学者向けです(注には専門的な話も含めています)。最後に練習問題も出してみました。なお、倫理学では「倫理」と「道徳」を同じ意味で使うことが多いです2。
功利主義(帰結主義の一種)
図:何に注目して、行為の正しさや不正さを評価するか?3
1 ほかに、契約論やケアの倫理など色々あります。
2 イギリスの倫理学者バーナード・ウィリアムズは、道徳(morality)と倫理(ethics)を区別して、道徳を近代に固有の偏った倫理的システムだと批判します(両者の区別について詳しくは、こちら(英語))。日本のメディアなどでも道徳と倫理を区別して使っているように思います。
3 伊勢田哲治 [2008]『動物からの倫理学入門』、名古屋大学出版会、8頁。
規範倫理学を学びたい人向けの読書案内
柘植尚則 [2021] プレップ倫理学〈増補版〉』、弘文堂。
平易な解説で、倫理学全体を幅広く学ぶことができます。まずはこの本を読むことをすすめます。
田中朋弘 [2012] 『文脈としての規範倫理学』、ナカニシヤ出版。
規範倫理学にテーマを絞った本です。この本を読めば規範倫理学の全体的な見取り図を描くことができると思います。ただし、功利主義と徳倫理学を「目的論」として括るなど、私とは違う見方も所々なされています。
伊勢田哲治 [2008]『動物からの倫理学入門』、名古屋大学出版会。
内容はやや難しいですが、動物の問題から倫理学理論を学ぶことができます。私が大学院で伊勢田先生から学んだ多くのことが書かれています。私の書評的なコメントはこちらから(ただし、Unsettled UtilitarianismはUnsettled-Domain Utilitarianismの間違いです)。この本が読みこなせたら、Mark Timmons [2012] Moral Theory: An Introduction, 2nd Edition, Rowman & Littlefield Publishers やJussi Suikkanen [2014] This Is Ethics: An Introduction, Wiley-Blackwellに挑戦してみるとよいと思います。
前半が倫理(道徳)の基礎づけ、後半が正義と二つのテーマに分かれています。倫理学史を学ぶのに最適です。規範倫理学という括りは現代英米圏の倫理学での括り方ですが、この本を読めばヘーゲルやレヴィナスやデリダなどの思想を含めより幅広い見取り図を描くことができると思います。奥田・永守・岡本書評と品川先生の応答を読むと理解が深まると思います。
規範倫理学ではないけれど
アンソニー・ウエストン [2004]『ここからはじまる倫理』(野矢茂樹・高村夏輝・法野谷俊哉訳)、春秋社。
倫理学を実践してみたい人向けです。自分で考える(権威・規則に無批判に従わない)、創造的に問題を解決する(選択肢を拡げる、問題を立て直す)、二極化してはいけない(その意見のどこが正しいかと問いかける、意見を結びつける)、想像力をともなった倫理(想像力を開く、倫理的配慮の範囲を拡げる)などが身につきます。似たものとして、アン・トムソン[2012]『倫理のブラッシュアップ:実践クリティカル・リーズニング応用編』(斎藤浩文十小口裕史訳)、春秋社 もおすすめできます。
永井均 [2011]『倫理とは何か:猫のアインジヒトの挑戦』、ちくま学芸文庫。
M先生の講義と猫の講義から成り立っています。M先生の講義だけひろって読めば、倫理学史の入門としておすすめできます。猫の講義はやばいです。私はふだん研究しながら猫のアインジヒトにどう答えようかと考えたりしています。(博士論文で多少応答しました。)
山内志朗 [2015] 『小さな倫理学入門』、慶應義塾大学出版会。
小さな本ですが、読んでいてハッとすることが多かったです。各章末で挙げられる関連文献がやや唐突で説明のないところが逆に手に取ってみたくなります。倫理学にある程度慣れ親しんでいる人(倫理学研究者など)こそ読んでほしい一冊です。