STM/AFM同時測定

~教えて!水紀さん!~

第1章 FM-AFMって?

STMとAFMのページを読んだ清(きよし)くん。清水研究室の水紀(みずき)さんから色々教えてもらっています。

清君

STMは絶縁性の試料に対して測定ができない、大気中のAM-AFMでは高い分解能が出ない、それぞれデメリットがあるのは分かった。AFMのコンタクトモードでは高い分解能が出ることもあるみたいだけど、それでは探針や試料表面が変形してしまうし、コンタクトせずに絶縁体表面を高い分解能で測定することはできないんだろうなー

水紀さん

それができるんだよ、清くん

清君

水紀さん!

水紀さん

AFMの一種である、FM-AFMであれば、絶縁性の試料に対してもSTMと同様原子レベルの分解能で、しかもコンタクトせずに測定ができることがあるんだ。

清君

すごい!ラジオみたいに、AM(Amplitude Modulation: 振幅変調)があれば、FM(Frequency Modulation: 周波数変調)もあるんだね!でもそれって、どんな仕組みなの?

水紀さん

FM-AFMは、AM-AFM同様、カンチレバーのような尖った探針を振動させて試料表面をなぞるんだけど、原子間力を振幅のずれではなく、周波数のずれとして検知するんだ。

清君

周波数のずれって、どういうこと?

水紀さん

カンチレバーに代表されるAFMのセンサーには、共振特性があるんだったね。つまり、Fig.1のように振動させる周波数fと振幅Aの関係をグラフにすると、センサーの固有周波数付近に振幅のピークがあるんだ。この共振曲線は、ファンデルワールス力などの引力を受けると、周波数が小さくなる方向にずれるんだよ。AM-AFMでは探針(カンチレバー)を共振周波数から少しずれた周波数で一定になるよう探針を振動させ、その曲線のずれを振幅のずれとして検知するんだったね。それに対してFM-AFMでは、位相同期回路と呼ばれるフィードバックをかけてあげることで、位相を一定の値にすることで共振状態を保ち、原子間力を共振周波数のずれとして検知するんだ。

Fig. 1 AFMセンサーの共振曲線

清君

なるほど!でもなんでAMよりFMのほうが分解能が高いの?

水紀さん

どっちの場合でも共振曲線が鋭い方が原子間力をよく検知できそうだね。この曲線が鋭いことを、Q値が高いともいうよ。でもAM-AFMではあんまり曲線を鋭くできない事情があるんだ。振幅が変化すると、センサーの振動によるエネルギーも大きく変わるんだ。このエネルギー差があんまり大きいとフィードバックに時間がかかってしまい、細かい凹凸が検知できなくなってしまうんだ。それに比べてFM-AFMは、共振状態になるよう位相を同期しているおかげで、原子間力を検知しても振幅がほとんど変化しない、つまりエネルギー差もほとんど生じなくて、細かいフィードバックが可能になり、分解能が高くなるよ。真空中ではQ値が高くなって、より細かい凹凸を検知できるんだ。

清君

なるほど!だからAM-AFMは大気中、FM-AFMは真空中でよく利用されるんだね!

水紀さん

FM-AFMにより分子を観察した例をFig.2に示すよ。STMと違って電子状態によらない凹凸を測定できるから、まるでボールスティクモデルのように分子を観察できるってわけ。この分子はベンゼン環を有するものなんだけど、それが六角形として確認できるね。原子の骨格を観察する、まさに顕微鏡の究極の目的ともいえることをFM-AFMは達成しているんだ。

Fig. 2 ベンゼン環を含む分子のFM-AFM像の例

第2章 STM/AFM同時測定とは?

水紀さん

FM-AFMには他にも特徴があるよ。センサーとして導電性のあるカンチレバー、もしくは水晶振動子を用いることで、なんとトンネル電流と原子間力を同時に測定する、STM/AFM同時測定(Fig.3)ができるんだ!

Fig. 3 STM/AFM同時測定

清君

同時測定!?なんかすごそうだけど、それって何のメリットがあるの?

水紀さん

同時に測定しなくても、別々で測定したデータを解析すればいいじゃんって思うよね。でも表面の状態やそれに付着させる分子など、色んな条件を全く同じに測定することって、不可能に近いんだ。でも同時測定であれば、文字通り同時にAFM像とSTM像を得ることができるから、電子状態と実際の凹凸を見比べることで新たな発見ができる場合があるんだ。

清君

例えばどんな発見?

水紀さん

試料表面に何かの分子が吸着している場合を考えてみようか。その吸着している部分が、STM像では暗く見えるけど、AFM像で明るく見える、なんてことが起きたとしよう。STMは電子状態を反映しているから、これは例えば酸素原子のような、電気の通しにくい分子が吸着していると推測できるんだ。片方の像だけでは判別するのが難しいけど、同時測定によってこういうことが分かったりするんだね。

清君

同時測定ってすごいんだね!

第3章 清水研究室では何をしているの?

清君

ひとことに顕微鏡といっても、清水研究室では、STM、AM-AFM、FM-AFM、色んな顕微鏡を使っているんだね!

水紀さん

そう!FM-AFMについてはまだまだ最適な状態じゃないから、センサーやスキャナの最適化なんかをやっている学生がいるよ。Fig.4は新しいセンサーを導入するための部品をCADにより設計したものだよ。これ実はかなり小さくて、実際に組み立てるってなったらピンセットを使ったかなり細かい作業になるね。

Fig. 4 CADによるセンサー設計図

清君

ただ実験をするだけでなく、設計や組み立てやなんかもするんだね!

水紀さん

そう!研究対象である物性について学んでいくのはもちろんなんだけど、装置に関することもたくさん学んでいくから、制御工学や電気電子回路などを含め、物情で学んだことを総動員しているんだ。

清君

物性だけでなく、色んなことを学べるんだね!清水研究室ってやっぱりすごい!

Written by M. S., K. T., and Y S.