研究テーマ

樹木の適応戦略

森の中で個々の樹木(特に高木)がどのような生態をもち、他の生物や環境とどのように関わりながら生きているのかについて研究しています。高木は多様な動植物のすみかとなる森を構成する主要な生物ですが、サイズが大きく寿命が長いため調査が困難で、そのためどのような理屈で生きているのかまだよく分かっていないことが多いのです。

この研究室では主に、カシ類と呼ばれるブナ科樹木の生態の解明に取り組んでいます。これまでの研究で、カシ類のあるグループでは、集団で同調して2年周期で大量結実する性質(隔年結実)が顕著であることを発見しました。また、葉の生産や枝の伸長にも隔年の周期があり、気象等の外的要因との相関はなく、何か進化上の理由がありそうです。最近の調査から、果実に産卵する特定の昆虫の行動が関係しているのではないかと考えています。

森林の動態

三重県の東紀州地域には、かつて海から隔てられて生じた海跡湖と呼ばれる湖が点在していて、この地域の特徴的な景観をつくり上げています。尾鷲市の須賀利大池もその一つで、約3,300年~3,500年前に形成されたと推定されています。集水域、海岸線、湖底の津波堆積物などが良好に保存されていて、国の天然記念物に指定されています。周囲には常緑広葉樹林が広がり、湖岸や水中には希少な湿地性植物や水草類をみることもでき、生態学的にも極めて重要な場と言えます。

しかし近年、この湖では湖岸の常緑広葉樹林のさまざまな樹種で原因不明の急激な枯死がみられるようになり、現在も年当たり10%を超える枯死率の高い状態が続いています。この枯死要因を明らかにし、海跡湖の森林生態系の動態を総合的に解明することを目的として研究を行っています。

森林環境教育・木育

林業の衰退、人工林の荒廃、それらにともなう災害の増加は、全国的な問題となっていて、森林の整備・保全と同時にESD(持続可能な発展のための教育)の視点にもとづく森林環境教育の重要性が指摘されるようになってきています。

ESDの視点から森林環境教育を推進するにあたり、子どもが森林に関心をもち、森林の多面的機能や森林保全の重要性を正しく理解できるようになるための最初のステップとして、小学校での取り組みが重要だと考えています。しかし、小学校での森林環境教育の推進には、現実問題として困難な点がたくさんあります。この研究では、広く小学校において継続的に実施可能で、かつ児童が主体的に探求することのできる森林環境教育の授業モデルを構築することを目的としています。

地域教材

自然に親しむ機会が減少している今日では、理科における自然体験の重要性はますます大きくなっています。また、生物多様性の消失も大きな問題となりつつあります。この研究室では、上記の研究の一方で、地域の自然を題材として、自然誌に関する学問の面白さを子どもたちに伝えることのできる教員養成に務め、地域の自然を題材とした生物教育・教材の開発等に取り組んでいます。

テレビやウェブのなかにある、「どこか遠くの自然」ではなく、校庭、道端、神社の森など、私たちの身近な自然のなかにこそ、多様で面白い生命現象や環境に関する現代的課題が存在している ―そういう視点で活動しています。