Research

 

[産業技術総合研究所での研究]

現在行っている研究

単電子素子を用いた量子電流標準とメトロロジトライアングルの研究

強磁性体と共振器を用いた回路量子電磁気学の研究

欠陥準位と超伝導共振器を用いた量子素子の研究

これまでの研究

欠陥準位を用いた非線形超伝導共振器の実現とパラメトリック増幅


in preparation

超伝導・常伝導ハイブリッド素子を用いた超伝導共振器の光子冷却

超伝導・常伝導ハイブリッド単一電子素子中で起きるphoton assisted tunnelingを利用することで、超伝導共振器中にある一粒に満たない光子を、さらに低減できることを超伝導量子ビットのAC Starkシフトを使って実験的に示しました。

Shuji Nakamura, Teruaki Yoshioka, Lemziakov Sergei, Hiroto Mukai, Akiyoshi Tomonaga, Shintaro Takada, Yuma Okazaki, Nobu-Hisa Kaneko, Jukka Pekola and Jaw-Shen Tsai, 

"Photon Cooling with Quantum Circuit Refrigerator probed by AC stark shift of  a Superconducting Qubit"

(submitted) 

量子メトロロロジトライアングル検証に向けた量子化電流の普遍性検証

量子メトロロジートライアングルに用いる電流源であるシリコン単一電子素子から発生する電流が、素子の違いによらず6桁以下の精度で一致していることを確かめました。この研究は、複数のシリコン単一電子素子から発生する電流が素子によらず普遍的な値I=efをとっていることを示した初めての実験です。さらに我々はこの二つの素子を同時に駆動することで電流を逓倍させることにも成功しました。量子メトロロジトライアングルの検証に向けて重要な一歩です。

Shuji Nakamura, Daiki Matsumaru, Gento Yamahata, Takehiko Oe, Yuma Okazaki, Shintaro Takada, Michitaka Maruyama, Akira Fujiwara, and Nobu-Hisa Kaneko

"Universality and Multiplication of Gigahertz-Operated Silicon Pumps with Parts Per Million-Level Uncertainty"

Nano Letters 24 (1), 9-15 (2024). 

超伝導・常伝導ハイブリッド単一電子素子を用いた超伝導量子ビット初期化の加速

これまで電流標準実現のために研究を行ってきた超伝導・常伝導ハイブリッド単一電子素子中に現れる光子吸収を用いて、超伝導量子ビットの初期化を高速化できることを実験的に示しました。この研究では、超伝導量子ビットの励起状態を光子に変換し、変換した光子をハイブリッド単一電子素子で吸収することで初期化を早めます。この実験ではおよそ180ns程度で励起状態を1%以下にできることを示しました。

T. Yoshioka,  H. Mukai,  A. Tomonaga,  S. Takada, Y. Okazaki, N. H. Kaneko, S. Nakamura†,  and J. S. Tsai †  († C.A.)    

"Active Initialization Experiment of Superconducting Qubit Using Quantum-circuit Refrigerator"

Phys. Rev. Applied 20, 044077 (2023)

量子メトロロジトライアングルの検証に向けた量子化電流の極性反転

量子メトロロジートライアングルの研究では、希釈冷凍機中にある電子素子から発生する微小な電気信号を0.00001%以下の相対不確かさで精確に評価する必要があります。このような微小な電気信号を測定するためには、通常、電流反転を行い熱起電力等の影響を取り除く必要があります。しかしながら単一電子素子で発生する電流は、この電流反転を行う事が素子の特性上困難でした。我々は、極低温で動作するリレースイッチを利用することで、量子化した電流を不確かさを保ったまま反転させることに成功しました。

 Shuji Nakamura, Daiki Matsumaru, Gento Yamahata, Takehiko Oe, Yuma Okazaki, Shintaro Takada, Michitaka Maruyama, Akira Fujiwara, and Nobu-Hisa Kaneko

"Cryogenic operation of electromechanical relay for reversal of quantized current generated by a single-electron pump"

IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement,  72,1-9 (2023)

人工分子系(二重量子ドット)におけるFano効果の観測

Fano効果は離散準位と連続準位が量子力学的に干渉することで引き起こされる現象で、これまでさまざまな系で観測されてきました。

本研究では、GaAs二次元電子系上に作製された二重量子ドットにおいてFano 効果が出現することを実験・理論から示しました。

Shota Norimoto, Shuji Nakamura, Yuma Okazaki, Tomonori Arakawa, Kenichi Asano, Koji Onomitsu, Kensuke Kobayashi and Nobu-hisa Kaneko

"Fano effect in the transport of an artificial molecule"

Phys. Rev. B 97,195313 (2018)

超伝導・常伝導接合単電子素子における逆近接効果と磁場の競合

超伝導、常伝導接合においては、超伝導体中のオーダーパラメータが常伝導の影響を受けることが知られています。我々は、超伝導・常伝導接合を用いた単電子素子において、この逆近接効果が超伝導体中の準粒子拡散を阻害すること、また磁場の印加によりこの準粒子拡散の阻害を抑制できることを実験・理論によって示しました。

Shuji Nakamura, Yuri A. Pashkin, Mathieu Taupin, Ville F. Maisi, Ivan M. Khaymovich, Alexander S. Mel’nikov, Joonas T. Peltonen, Jukka P. Pekola, Yuma Okazaki, Satoshi Kashiwaya, Shiro Kawabata, Andrey S. Vasenko, Jaw-Shen Tsai, and Nobu-hisa Kaneko

"Interplay of the inverse proximity effect and magnetic field in out-of-equilibrium single-electron devices"

Physical Review Applied 7, 054021 (2017) // arxiv:1612.04116

超伝導・常伝導単電子素子を用いた量子電流標準の研究

現在の科学技術は高精度で信頼性の高い測定によって支えられています。この高精度で信頼性の高い測定結果の正当性を担保するためには、その基準となる「標準」が必要です。現在電流の標準は「オームの法則」を用いて実現していますが、この手法ではなく電子を一粒づつ輸送することで電流標準を実現するため研究を行っています。

N.H.Kaneko, S.Nakamura, Y. Okazaki

Review of Measurement Science and Technology 27,  032001 (2016)


”量子電流標準を目指して”

 中村秀司

電子情報通信学会誌 (2015)


”量子電流標準と微小電流計測の可能性”

中村秀司

計測標準と計量管理 Vol.65 No.2, 79-83 (2015)


S. Nakamura, Yu. A. Pashkin, J-S tsai and N-H. Kaneko

"Single-electron pumping by parallel SINIS turnstiles for quantum current standard"

IEEE Instrumentation and Measurement 64, 1696 (2015)


”SINISターンスタイル素子を用いた単電子ポンプ : 量子電流標準実現に向けて”

中村秀司、Yu. A. Pashkin, J-S. Tsai, 金子晋久

電子情報通信学会技術研究報告, 113, 1 (2014)


"Temperature dependence of Single-Electron Pumping using a SINIS Turnstile"

S. Nakamura, Yu. A. Pashkin, J-S. Tsai and N-H Kaneko

Physica C 504, 93 (2014)


"A Review of Current Standard"

Shuji Nakamura

AIST Bulletin of Metrology,8, 4, 439 (2013) 

[京都大学での研究]

GaAs系二次元電子系上に作製したQPC、アハラノフボームリング、InGaAs系二次元電子系状に作製したQPCなどを舞台とした電流雑音(電流の時間的なゆらぎ)に注目して研究を行い以下の結果を得ました。

スピン軌道相互作用の大きな系における電流雑音測定

 InGaAs系二次元電子系は、通常のGaAs二次元電子系に比べてスピン起動相互作用が大きな系です。スピン軌道相互作用は、有効磁場として働くため半導体中でのスピン操作やスピン生成に適した系として注目を浴びています。私たちはInGaAs系二次元電子系に量子ポイントコンタクトを作製し、スピン軌道相互作用による有効磁場を空間変調させることでアップスピンとダウンスピンの空間的な分離に成功しました。このことは半導体二次元電子系で「シュテルン・ゲルラッハの実験」を行ったことに相当します。

Makoto Kohda, Shuji Nakamura, Yoshitaka Nishihara, Kensuke Kobayashi, Teruo Ono, Jun-ichiro Ohe, Yasuhiro Tokura, Taiki Mineno and Junsaku Nitta

"Spin–orbit induced electronic spin separation in semiconductor nanostructures"

Nature communications 3, 1082 (2012)


Yoshitaka Nishihara, Shuji Nakamura, Kensuke Kobayashi, Teruo Ono,  Makoto Kohda and  Junsaku  Nitta

“Shot noise suppression in InGaAs/InGaAsP Quantum Channels”  

Applied Physics Letter 100, 203111 (2012)

アハラノフボームリングにおける「ゆらぎの定理」の検証

統計力学において平衡領域近傍の物理は久保の線形応答理論オンサーガーの相反定理などよく理解されています。一方で、この枠組みを超えた非平衡状態において一般的に成立する法則を見出そうという試みも現在精力的に行われています。その中で1993年に発見された「ゆらぎの定理」は、エントロピーが増加する確率と減少する確率を結びつけたもので、「熱力学第二法(エントロピー増加の法則)の破れ」を定量的に記述したものです。私たちは、数百nm程度の微小なアハラノフボームリングにおける電流雑音測定によって、「ゆらぎの定理」が量子力学的な系においても成立していることを実験的に確かめました。 

S. Nakamura, Y. Yamauchi, M. Hashisaka, K. Chida, K. Kobayashi, T. Ono, R. Leturcq, K. Ensslin, K. Saito,

Y. Utsumi, and  A. C. Gossard

“Nonequilibrium Fluctuation Relations in a Quantum Coherent Conductor”

Physical Review Letters, 104, 080602 (2010).


Shuji Nakamura, Yoshiaki Yamauchi, Masayuki Hashisaka, Kensaku  Chida, Kensuke Kobayashi, Teruo Ono, Renaud Leturq, Klaus Ensslin, Keiji Saito, Yasuhiro Utsumi, and Arthur C. Gossard,

“Fluctuation theorem and microreversibility in a quantum coherent conductor”,

Physical Review B 83, 155431 (2011) [Editors' Suggestion]


量子ポイントコンタクトにおける電流雑音測定

半導体二次元電子系に作製した量子ポイントコンタクトでは、その伝導度が2e^2/hを単位として量子化することが知られています(ランダウアーの公式)。しかしながらこの量子化した伝導度に2e^2/hを単位としない量子化が起きることが長年指摘されてきました。これを「0.7伝導度異常」といいます。私たちは、非対称な構造を持つ量子ポイントコンタクトを作製し、その閉じ込めポテンシャルの形状を変化させました。その結果静電ポテンシャルの形状によって伝導度異常の有無が変化することを見出しました。また伝導度異常が出現している状態で雑音測定を行った結果、この伝導度異常がスピン分極したチャネルの伝導によって引き起こされていることを明らかにし、その分極率が70%と非常に大きな値を取っていることがわかりました。。

S. Nakamura, M. Hashisaka, Y. Yamauchi, S. Kasai, T. Ono, and K. Kobayashi

“Conductance anomaly and Fano factor reduction in quantum point contacts”

 Phys. Rev. B, 79, 201308 (R) (2009).