SANCTUARY

Principal-in-charge : Fujino Takashi

Project team : Gunji Emi Tsutsumi Yasuhiro Saito Naoki

Design : 2015.11 - 2016.10

聖域

新旧の並存

ある広い敷地で,家の建て替えを希望された.敷地内には既存住宅の他,古い蔵の礎石や井戸や老木が散らばり,長いあいだ住み継がれてきた場所だと一目で分かる.私が提案したのは,既存の家を壊さず,庭に新しい家を建て,新旧を行き来する生活である.

建築の終わりと始まり

人は新しい家に住まうとき,時間をかけて建築に馴れる.だが家を去るときはいつも,ぷつりと建築体験が停止する.建築の終わりと始まりの経験がなだらかに連続すれば,時間をかけて身体化してきた住空間と人の繋がりを,新しい生活に引き継げるのではないか.ここでは,古い家から新しい家へ生活の重心を徐々に移行する.夏や冬は高スペックの新居で暮らし,気候の良い時は古い家の時間を楽しんだり,家族同士の距離を適度に保ったり,古い家でガーデニング教室を開いたり…と,新旧の家の並存は生活の自由度を広げる.


風化する野

二つの家に挟まれた土地は,人が立ち入らないまま残し,草木の繁茂に任せる.歳月を経て植物は遷り変わり,家は背景となる.時間を経た風景のみが持つある種の合理性を,新旧の間に置くのである.身の周りを見渡せば,生物の姿,水や石や雲の形,森の生態系,都市の複雑系,時間をかけ無駄が削ぎ落とされ本当に必要なものが残っている.住まい手が歳を重ね,朽ちゆく家に,野は相応しい.

空間と時間の横断

この計画のもう一つの意味は,住人自らを相対化することにある.新旧の家が向かい合うので,古い家の昔の自分,新しい家の今の自分を,もう一方から客観的に静かに感じる.記憶は時間を遡ったり,現在に引き戻されたりしながら,こちらとあちらを行き来する.身体は空間を,精神は時間を横断しながら暮らす.その中心部の人が辿り着けない場所を「聖域」と名付けた.


担当:藤野高志 郡司絵美 堤康浩 齋藤直紀

設計期間:2016.12 - 2017.02