NaSSA:ナッサとは?
NaSSA:Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant
「NaSSA」とは、
- Noradrenergic=ノルアドレナリン作動性
- and
- Specific=特異的
- Serotonergic=セロトニン作動性
- Antidepressant=抗うつ薬
「NaSSA」とは、Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressantの略です。
そのまま訳すと、「ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ剤」ですが、通常は、「ノルアドレナリン・セロトニン作動性抗うつ薬」と、呼ばれています。
NaSSAは、2009年7月7日、うつ病治療薬のミルタザピン(商品名:レメロン錠15mg、リフレックス錠15mg)として、製造承認を取得しました。
ミルタザピンは、1994年にオランダで発売されて以降、現在までに世界90カ国以上で発売されています。
「1日1回、1回1~2錠を就寝前に服用」が、標準的なミルタザピンの用法・用量です。
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NaSSAはどんな人に向いているの?
NaSSAの本来の医薬品上の適応は、『うつ病・うつ状態』だけです。
しかし、実際には、幅広い目的で使われています。
- うつ病
- 不安障害(不安症)
- 不眠症
- 痒み(かゆみ)
うつ病
うつ病の原因の全てはまだ解明されていませんが、原因の1つであるとして「モノアミンの減少」が考えられています。
モノアミンの減少によってうつ症状が生じているという考えは「モノアミン仮説」と呼ばれており、現在でも支持されている仮説になります。
モノアミン仮説に従えば、モノアミンを増やすことが、うつ病治療につながります。
NaSSAは、セロトニンやノルアドレナリンといったモノアミンの分泌を直接的に増やす作用があるため、うつ病に対して高い効果が期待できる抗うつ剤になります。
不安障害(不安症)
パニック障害、社会不安障害、全般性不安障害や恐怖症など、「不安」や「恐怖」が根本にある疾患を、不安障害と呼びます。
NaSSAは、不安障害にも効果を示します。
不安障害の原因も、全てが解明されているわけではありませんが、脳科学の研究によると、不安が高まっている脳においては、扁桃体(へんとうたい)や海馬(かいば)が過活動となっていることが指摘されています。
セロトニン神経には、こうした過活動を抑えてくれるはたらきがあるため、セロトニンを増やす作用を持つNaSSAは、しばしば不安障害の治療に用いられます。
ただし、不安障害はセロトニンの影響が大きいため、SSRIの方が、先に用いられる傾向にあります。
不眠症
NaSSAの代表的な副作用として、『強い眠気』があります。
特に、NaSSAを初めて服用する時には、非常に強い眠気に襲われることがあり、その強烈な眠気にびっくりして、服用をやめてしまう事もあるほどです。
そのため、NaSSAは基本的には、寝る前に服用することが多くなっています。
『強い眠気』の原因は、NaSSAの持つ「抗ヒスタミン作用」によるものだと考えられています。
ヒスタミンは脳の覚醒に関わっている物質ですが、NaSSAはヒスタミンの働きをブロックするので、これにより脳の覚醒レベルが落ち、眠気を感じるようになるのです。
その為、NaSSAは、不眠症の治療薬として用いられることも珍しくありません。
そして、NaSSAの良いところは、ただ眠気を感じさせるだけではなく、眠りの質を高めてくれる事です。
眠りには「浅い眠り(REM睡眠や軽睡眠)」と「深い眠り(深部睡眠)」がありますが、NaSSAは深部睡眠を増やす事が報告されています。
これは上記の抗ヒスタミン作用だけではなく、セロトニン2受容体をブロックする作用も関係していると考えられています。
かゆみ
NaSSAは、強い抗ヒスタミン作用を持ちます。
ヒスタミンは、覚醒以外に、アレルギー反応にも関わっています。
ヒスタミンは肥満細胞(マスト細胞)から分泌されるのですが、過剰に分泌されるとアレルギー症状(かゆみ、鼻水など)が生じることがあります。
抗ヒスタミン作用を持つNaSSAは、このようなアレルギー症状の改善にも用いることができます。
NaSSAの作用機序
NaSSAは、これまでの抗うつ薬であるSSRIやSNRIとは、作用機序が異なる薬になります。
NaSSAは、うつ症状の原因のひとつと考えられている、脳内の伝達物質であるセロトニンの増強や、ノルアドレナリンの放出を抑制している働きを抑えることで、気分を高揚、不安や気力の減退の解消を目指します。また一方で、H1受容体を遮断するため、不眠の改善がみられますが、強い眠気や食欲の促進などがおこります。
- NaSSA⇒セロトニンやノルアドレナリンを増やす
- 三環系・四環系・SSRI・SNRI⇒セロトニンやノルアドレナリンを減らないようにする
SSRI (選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI (セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬等、抗うつ薬の多くは、シナプスでの「再取込を阻害する」ことで、シナプス間隙にセロトニンが残るので、結果としてセロトニンやノルアドレナリンの濃度が増えていく、という仕組みです。
一方、NaSSAはセロトニンやノルアドレナリンの分泌自体を、増やします。
吸収を抑えるのではなく、分泌量を増やすことで、濃度を上げるのです。
具体的には、
- α2受容体の遮断作用
- 5-HT1受容体への特異的作用
です。
α2受容体遮断作用による抗うつ効果
ノルアドレナリン(NA:Noradrenaline)は、前シナプスに存在するα受容体(あるふぁじゅようたい)へ作用することで、意欲や活力の向上を脳へ働きかけます。
NaSSAは、α2受容体の働きを抑えることで、ノルアドレナリンを放出させ気分の高揚を狙います。
α受容体はα1とα2の2つに分かれており、
- α1は意欲や活力の作用を
- α2はノルアドレナリン(NA)とセロトニン(5-HT)の放出を抑制する働きを
を持ちます。
つまり、α2受容体を遮断すると、『放出を抑えることを遮断する』ことになり、NA神経からはNA:ノルアドレナリン、5-HT神経からは5-HT:セロトニンの放出が促されます。
結果、シナプス間隙にはノルアドレナリンとセロトニンが増え、うつの症状が改善します。
5-HT1受容体への特異的作用~5-HT2(2A、2C)、5-HT3受容体遮断作用による抗うつ効果
NaSSAは、5-HT2(2A、2C)、5-HT3受容体に結合することで、セロトニンを遮断する作用も持っています。
つまり、セロトニンが5-HT2A、5-HT2C、5-HT3の各受容体に結合する事によって発現する作用を、NaSSAがその受容体に結合する事によってブロックするのです。
そして、5-HT2(2A、2C)、5-HT3に結合出来なくなったセロトニンは、遮断されていない5-HT1受容体に結合します。
各セロトニン受容体の働き
NaSSAはセロトニン受容体のうち、5-HT1Aには結合せず、5-HT2A、5-HT2C、5-HT3に結合します。
NaSSAが、それぞれの受容体を刺激した時の作用は
- 5-HT1A=抑うつ・抗不安
- 5-HT2A=性機能障害
- 5-HT2C=不安・不眠・イライラ・攻撃性
- 5-HT3=吐き気や下痢等の消化器症状・悪心
NaSSAは、5-HT1受容体に特異的に作用することにより、5-HT2、5-HT3による副作用が少なくて済み、かつ抗うつ、抗不安作用を発揮する事ができる、ということになります。
もっと専門的に知りたい方はこちら⇒⇒「リフレックス®錠」の作用機序について(明治製菓プレスリリース)
- NA神経シナプス前α2-自己受容体を遮断することによりNA遊離を促進
- NA細胞体存在するα2-自己受容体を遮断することによりNA神経を活性化
- NA遊離の促進により5-HT神経細胞体α1-受容体を介して5-HT神経を活性化
- 5-HT神経シナプス前α2-ヘテロ受容体を遮断することにより5-HT遊離を促進
- 後シナプス5-HT2及び5-HT 3受容体の遮断作用
NaSSAは4環系抗うつ薬の改良版?
NaSSAの主成分のミルタザピンの副作用としては、強い眠気があります。
四環系抗うつ薬のミアンセリン(商品名テトラミド)という薬は、「寝て治す抗うつ薬」といわれるぐらい眠気を起こしますが、ミルタザピンも同程度の強い眠気をひきおこすことが多くあります。
そもそも、NaSSAは、四環系の抗うつ薬を改良したものです。
構造式も4環系抗うつ薬であるミアンセリン(テトラミド)に似ており、
- シナプス前α2-アドレナリン受容体を阻害することで神経シナプス間隙へのノルアドレナリン放出を促進する作用
- 5-HT2受容体阻害を阻害することで、セロトニンを増やす作用
- 脳内H1受容体へ結合することで起こる眠気
等がある抗うつ薬です。
ミアンセリンの場合、発売当初は画期的新薬として注目されましたが、抗うつ効果が弱く、眠気の副作用が強いため、抗うつ剤として単独で使用されることは少なくなりました。
創薬はどちらもシェリング・プラウなので、ミルタザピンはミアンセリンの派生薬・改良版と考えて良さそうです。
NaSSAの副作用
NaSSAの主な副作用は、眠気と体重増加です。
そもそも、NaSSAは、四環系の抗うつ薬を改良したものです。
四環系のミアンセリン(商品名テトラミド)という薬は、「寝て治す抗うつ薬」といわれるぐらい眠気を起こしますが、ミルタザピンも同程度の強い眠気をひきおこすことが多くあります。
高頻度に認められた副作用は
- 傾眠(50%)
- 口渇(20.6%)
- 倦怠感(15.2%)
- 便秘(12.7%)
- アラニン・アミノトランスフェラーゼ増加(12.4%)
重大な副作用としては、
- セロトニン症候群
- 無顆粒球症
- 好中球減少症
- 痙攣
- 肝機能障害
- 黄疸
- 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)
が報告されています。
国内の臨床試験で、82.7%に何らかの副作用が認められたことに留意する必要があります。
NaSSA開発の経緯
NaSSAが承認されるまで、うつ病治療で主に使用されていたのは、パロキセチン(商品名:パキシル)をはじめとする「選択的セロトニン取り込み阻害薬」(SSRI)と、「セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬」(SNRI)のミルナシプラン(商品名:トレドミン)でした。
どちらも、従来の抗うつ薬(三環系・四環系)に比べると、安全性が高く、治療領域が広いのが特徴とされています。
しかし、SSRIやSNRIでは、使用量が増えるにつれ、
- 作用発現までに時間がかかる
- セロトニン受容体刺激によると考えられる悪心・嘔吐、下痢などの副作用が見られる
等の問題点がクローズアップされるようになり、臨床の現場からは、こうした問題が少ないさらに新しい抗うつ薬の開発・承認が望まれていたのでした。
うつ病患者を対象としたミルタザビンの日本での臨床試験(プラセボ対照比較試験)では、投与1週目から有意に高い改善効果が示されており、長期投与試験では、52週まで抗うつ効果が維持されることが確認されています。
こうした試験結果から、従来薬に比べて、効果発現までの時間が短く、持続的な効果が得られる抗うつ薬として期待されています。