ドーパミンとは

ドパミン:dopamine

ドパミンは、「快感や多幸感を得る」、「意欲を作ったり感じたりする」、「運動調節に関連する」といった機能を担う、脳内ホルモンのひとつです。

    • ドーパミンとも呼ばれる神経伝達物質の一つです。
    • アドレナリン・ノルアドレナリンの前駆体です。
    • カテコールアミンと呼ばれる種類に属し、アミノ酸のチロシンから酵素の働きによって合成されます。
    • 人が快く感じる原因となる脳内報酬系の活性化において、中心的な役割を果たしています。
    • ドーパミンは意欲やモチベーションを生み出す物質です。
    • ドーパミンが分泌されすぎると、依存症に陥りやすくなる場合もあります。

ドパミンによって情報を伝達している神経経路はいくつかあり、それぞれに異なった生理機能をもっています。

ドパミンが働く主な神経経路には黒質線条体路・中脳辺縁系路・中脳皮質路の3つがあります。

    • 黒質線条体路はパーキンソン病
    • 中脳辺縁系路と中脳皮質路は統合失調症

と関連するとされています。

ドパミンと統合失調症

統合失調症は、精神機能のネットワークがうまく働かなくなる状態です。

情報の伝達に欠かせないのが、神経伝達物質です。

統合失調症には、神経伝達物質の異常が関わっていることが少しずつわかってきました。

神経伝達物質にはさまざまな種類がありますが、統合失調症の発症と関係があると考えられているのはドパミンです。

統合失調症では、中脳辺縁系ではドパミンの機能亢進が、中脳皮質系ではドパミンの機能低下が引き起こされるために、陽性症状と陰性症状という一見相反する症状が併存しているとされています。

    • ドパミン量が過剰になっている陽性症状
    • ドパミン量が減少している陰性症状

ドーパミンが過剰に分泌されると、脳が異常に興奮して、思考機能が過剰に働き、見えないものが見えたり、聞こえない声が聞こえたりといった、幻覚や妄想の症状を伴うタイプの統合失調症を発症する原因になります。

また、チック症やトゥレット症候群、強迫性障害といった精神疾患を引き起こす原因も、ドーパミンの過剰分泌であると考えられています。

統合失調症の陽性症状

統合失調症によってドパミンの分泌が亢進している部位は、脳の中でも中脳辺縁系と呼ばれる部分です。

中脳辺縁系でドパミンが過剰に放出されていると、幻覚や妄想などの陽性症状が引き起こされるとされています。

ドパミンの働きを遮断する抗精神病薬が統合失調症の陽性症状の治療に効果を示すこと、また、ドパミンの働きを活性化させる薬剤が統合失調症に似た幻覚・妄想を引き起こすことから、統合失調症の陽性症状に脳内のドパミンの過剰が関与しているのではないかと考えられています。

ドパミン量を減少させるように働く薬は、統合失調症による陽性症状を改善させることができます。

統合失調症の陰性症状

脳の全ての経路でドパミンが過剰になっている訳ではありません。

ドパミン機能の低下が起こっている部分として、中脳皮質系があります。

中脳皮質系の経路で、ドパミンの機能の低下がみられと、意欲減退、意欲減退や集中力の低下、感情鈍麻などの陰性症状が現れると考えられています。

陽性症状を改善させるためにドパミンを強力に阻害すると、中脳皮質系のドパミンまで抑えて陰性症状を強く引き出してしまう恐れがあります。

パーキンソン病は、ドパミンの不足によって起こりやすくなります。

パーキンソン病とドパミン

ドパミンは、1950年代初頭には、ノルエピネフリンやエピネフリンの単なる前駆物質で、特別、生理的な仕事はしていないだろうと考えられていました。

しかし、1959年になって、ドパミンは脳にもノルエピネフリンと同じくらいたくさん含まれていること、ノルエピネフリンとは全く違って「大脳基底核」という脳の部位に局在していることを発見された結果、ドパミンは脳で神経伝達物質として、おそらく運動の制御に深く関る物質なのではないかと考えられるようになってきました。

1960年には、パーキンソン病の患者の大脳基底核の中の「線条体」という場所のドーパミンの量が非常に少ないことを確認し、1961年にはドーパミンの前躯体であるL-ドーパを患者に静注して、注射後数分以内に動くことのできなかった患者さんが立ち上がって歩きだしたことを確認しています。

ドパミン作動性神経

脳の中にはおよそ1兆個の神経細胞がありますが、そのなかにはドパミンにしか反応しない神経も存在します。

ドパミンにしか反応しないは、快感を伝達する神経といわれいて、「ドパミン作動性神経」と呼ばれています。

ドパミン作動神経は、主に快感を得たときに活躍する神経なのですから、逆を言えば、ドパミンを分泌させること=快感を得ることでもあるのです。

セロトニン仮説

ドパミンの働きを遮断する作用のある抗精神病薬で陰性症状が改善されない患者さんに、セロトニンの働きを遮断する作用のある抗精神病薬を投与すると、陰性症状が改善することがみられることから、セロトニンが陰性症状の発現と関連しているのではないかと考えられています。

ただし、症状改善がみられるのはドパミン遮断作用のある薬剤と併用した場合のみで、セロトニン遮断作用の薬剤だけの投与では効果は得られません。

このことから、ドパミン神経系とそれを抑制的に作用するセロトニン神経系とのバランスが崩れ、中脳皮質系におけるセロトニン系の働きのほうが優位になり、その結果、陰性症状が現れるのではないかと考えられています。

アルコールとドパミン

アルコールを飲むことによって快く感じるのは脳内の報酬系と呼ばれる神経系が活性化するためと考えられますが、この報酬系ではドパミンが中心的な役割を果たしています。

アルコール・麻薬・覚せい剤などの、依存を形成する薬物の多くはドパミンを活発にする作用があり、そのために報酬系が活性化するので、これらの薬物を使用すると快感をもたらすと考えられます。