絶対に使ってはいけない?~ベンゾジアゼピン系薬剤の欠点・デメリット・怖さ

ベンゾジアゼピン系薬剤の問題点

日本では、睡眠薬や抗不安薬は、様々な診療科で、非常に安易に処方されています。

中でも、γ-アミノ酪酸(GABA)A-BZ受容体複合体に結合し、GABAA(ギャバA)受容体機能を増強することで、抑制系の神経伝達を促進し、催眠鎮静作用(さいみんちんせいさよう)、抗不安作用、筋弛緩(きんしかん)作用及び抗けいれん作用を示す、ベンゾジアゼピン(BZ)系薬剤は、処方の頻度、処方用量、多剤処方(たざいしょほう)の頻度の点において、大きな問題を抱えています。

ベンゾジアゼピン(BZ)系薬剤は、薬物依存(やくぶついぞん)等の薬物関連障害の原因薬物の上位を占めています。

『悪魔の薬』とも呼ばれる、かの有名な”デパス”も、ついに『向精神薬』に指定されました。

デパス(エチゾラム)の”向精神薬指定”と個人輸入禁止デパスの代わりになる薬~個人輸入が出来る薬は?

国際麻薬統制委員会が問題視~ベンゾジアゼピン(BZ)系薬剤の使用量の多さ

国際連合の機関の1つ、国際麻薬統制委員会は、2010年、「国際統制薬物の医療・科学目的の適切なアクセス促進に関する報告書」で、日本でのBZ系薬剤の消費量が、他のアジア諸国と比較して高いことについて、高齢人口の多さとともに、不適切な処方や濫用と関係している可能性があると指摘しました。(Report of International Narcotics Control Board for 2010. suppl.1, 2010, 40)。

国際麻薬統制委員会(International Narcotics Control Board:INCB)

ベンゾジアゼピン(BZ)系薬剤の使用量~日本の現況

日本 では診療報酬改定による抗不安薬と睡眠薬の多剤処方の抑制施策が導入されていますが、精神科外来患者の 32% もに BZ 受容体作動薬が多剤処方されています。

このような状況から、厚生労働省は平成24年度及び26年度の診療報酬改定において、3剤以上投与時の診療報酬の減算等を導入し、睡眠薬や抗不安薬の処方の適正化を図っています。

BZ 受容体作動薬の処方ガイドラインでは、耐性と依存形成の リスクを避けるため、 2 ~4週間以内の短期使用にとどめるよう推奨されています)

ベンゾジアゼピン受容体作動薬の依存性について

患者の不利益を最小限にするため、 BZ受容体作動薬の処方抑制施策を段階的に施行することが求められています。

ゾピクロン(アモバン)及びエチゾラム(デパス)を向精神薬に指定

厚生労働省は、ゾピクロン(アモバン)及びエチゾラム(デパス)について、濫用のおそれが確認されたことから、「麻薬、麻薬原料植物、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令」を改正し、これらを新たに

  • 向精神薬(第三種向精神薬)に指定する(平成28年9月14日付、政令第306号)
  • 投薬期間の上限を30日とする(平成28年10月13日付、厚生労働省告示第365号)

添付文書における注意喚起としては、「使用上の注意」の項において大量連用時の依存性に関する注意喚起を行っています。

デパスの代わりになる薬薬物依存性が強い薬の一覧

しかし、BZ受容体作動薬の依存に対する認識は、濫用や医療外使用によるものではなく、医療上の使用で生じる依存であるとする考えが、徐々に浸透してきています。

催眠鎮静薬、抗不安薬及び抗てんかん薬の「使用上の注意」改訂の周知について(厚生労働省医薬・生活衛生局安全対策課長)

ベンゾジアゼピン系薬剤は麻薬

国連麻薬統制委員会では、ベンゾジアゼピン系の薬剤を麻薬として統計処理しています。

国際麻薬統制委員会=International Narcotics Control Board:INCB)が、世界の薬物情勢に関する年次報告を発表(2000年2月23日)

2000年2月23日に発表された、国際麻薬統制委員会(INCB)年次報告書では、特に開発途上国において、医療用の合法的な麻薬供給を十分に確保するため、協調的な努力を行う必要性に重点を置いています。

不正な薬物使用と、一部の当局による妥協的な態度が広がる一方で、末期ガンの痛みに苦しんでいる人々など、薬物が大きな恩恵をもたらしうる人々が、モルヒネやその他の麻酔剤のような確立された鎮痛剤を利用できないという現実は、ウィーンに本部を置くINCBにとって、大きな懸案事項となっています。

また、開発途上国における鎮痛剤の不足とは対照的に、先進地域では薬剤の過剰投与の問題が生じています。

米州におけるアンフェタミンその他覚せい剤の大量消費、ならびに、ヨーロッパにおけるベンゾジアゼピン系睡眠薬および覚せい剤への過剰依存もまた、INCBにとって大きな懸念の材料になっています。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬の代表的な副作用

    • 依存性⇒常用によって、薬に対する身体依存が形成されてしまう。
    • 耐性⇒耐性ができると、最初は効き目のあった使用量では効かなくなり、服薬量が増えていく。
    • 持ち越し効果⇒効果が翌朝まで続き、眠気やふらつきなどの症状が出る。
    • 退薬症状(離脱症状)⇒一旦、ベンゾジアゼピン系薬に対する依存性が出来てしまうと、急に服薬を中止することで、つまり、【禁断症状】が出現する。
    • 記憶障害(健忘)⇒薬物服用後、「眠るまでの出来事」や「朝起きた時の出来事」の記憶が無くなる。
    • リバウンド(反跳性不眠)⇒ベンゾジアゼピン系薬を長い間使用してた後、急に服用を止めると、不眠・恐怖・ふるえなどの離脱症状が起こる。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬の、依存性や耐性等の問題を防止するためには、なるべく短期間の服用が望ましいのです。

最適な睡眠薬の選び方

ベンゾジアゼピン系睡眠薬の薬効分類と規制区分

ベンゾジアゼピン受容体作動薬~睡眠薬または抗不安薬として

ベンゾジアゼピン受容体作動薬は、作用する受容体の場所によって、睡眠薬や抗不安薬に使用されます。

受容体は、ω1受容体(α1受容体)とω2受容体(α2、α3、α5受容体)の二つに分けられます。

  • ω1受容体(オメガ1じゅようたい)は睡眠・鎮静に作用⇒ベンゾジアゼピン系睡眠薬
  • ω2受容体(オメガ2じゅようたい)は抗不安・筋弛緩(きんしかん)・抗痙攣(こうけいれんさよう)に作用⇒ベンゾジアゼピン系抗不安薬

国際麻薬統制委員会(INCB)が、ベンゾジアゼピン系薬剤の乱用に忠告(1999年2月23日)

国際麻薬統制委員会(INCB)は、過去1年間の全世界における規制対象薬物の乱用と密売の動向を明らかにしました。

1998報告書で取り上げられた重要問題としては、ベンゾジアゼピン系薬剤(通称「ベニーズ」)と、アンフェタミン型覚醒剤の乱用増大、ならびに、開発途上国でこれらおよびその他の向精神薬を売る街頭市場の急拡大があげられます。

ベンゾジアゼピン系(BZ系)薬剤の乱用が急増している、ヨーロッパおよびその他の先進国では、多くの原因のはっきりしない症例について、この薬物を長期間にわたって処方する医師も見られますが、ベンゾジアゼピン系薬の使用には、一層の注意を要することを医師に印象づけるよう働きかけています。

ベンゾジアゼピン系薬剤の使用制限:海外での使用状況

睡眠薬としてのべンゾジアゼピン受容体作動薬(Bz)は、日本では『安全な薬』として、異常なほど利用されています。

国民の20人に一人は常用していると言われる睡眠薬市場の、80%はベンゾジアゼピン系睡眠薬とも言われています。

しかし、べンゾジアゼピン受容体作動薬は、利便性が高い一方で、依存性や禁断症状や減薬・休薬時の離脱症状などの有害事象発現リスクへの懸念があり、諸外国では 適正使用を促すため、処方抑制の施策が導入されてきています。

医薬品医療機器総合機構では、海外における状況医療上の使用で生じる依存に関連する適正使用の注意喚起を検討するため、海外規制当局が課している、処方期間の制限あるいは推奨する処方期間について確認しました。

独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA;Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)の報告から抜粋します。

独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)

以下ベンゾジアゼピン⇒BZと表現

イギリス(英国)のBz薬使用状況

イギリスでは、1980年代から、BZの長期使用による薬物依存や離脱症状のリスクが懸念されてきましました。

医薬品・医療製品規制庁(MHRA)の医薬品安全性委員会は、1988年に、「特定のBZ受容体作動薬が他のBZ受容体作動薬より依存形成や離脱症状発現に結びつきやすいことを示す疫学的根拠はない」と、すべてのBZ受容体作動薬で同等に依存形成が起こり得ることを明言し、「BZ受容体作動薬は短期の使用に限ること」「BZ受容体作動薬の使用量の削減を段階的に行う」など、その使用法にも言及した声明を発表しています。

そして、同年に、重度の不安に対しBZは短期間での使用(2~4週までに留める)と限定しました。

2011年7月には、漸減期間を含め、BZの処方期間は最長で4週まで

と、改めて注意喚起しています。

フランス(仏国)のBz薬使用状況

フランスでは、2012年9月、国立医薬品・医療製品安全庁(ANSM)より、BZ誤用の低減のためのアクションプランが発表されており、

  • 不眠治療に対しては4週まで
  • 不安治療に対しては12週まで

という継続処方期間の制限を課しています。

カナダ(加国)のBz薬使用状況

カナダでは、1982年、保健省がBZの使用に関する書籍を発表しており、その中でBZの抗不安作用に関して、投与開始2~4週以降は効果が期待できないため、1~2週間の投与期間が推奨されています。

また、BZの依存性に関しては、多数の研究結果から、ジアゼパムでは投与開始2週間~4ヵ月で依存が形成されると推測されています。

デンマークのBz薬使用状況

デンマークでは、2007年、国家保健委員会より依存性薬物の処方に関するガイダンスが発表されており、BZの処方は、

  • 不眠治療に対しては1~2週間
  • 不安治療に対しては4週間

の投与期間とすることが推奨されています。

オランダのBz薬使用状況

オランダでは、すべての国民は公的医療保険に加入している。

2009年1月、抗不安作用・催眠鎮静作用を目的としたBZ系薬剤と非BZ系薬剤が、保険給付の対象外とされた。

    1. てんかん
    2. 2種類以上の抗うつ薬で改善が認められない不安症
    3. 高用量のBZ受容体作動薬を使用する必要性がある複数の精神疾患の併存
    4. 終末期の患者

は、施策の適用範囲外とされた。